生成AIだからといって、別のデータ保護制度が生まれるわけではありません。個人データがAIシステムに渡った時点で、GDPR(EU一般データ保護規則)が適用されます。データがプロンプトに入力された場合も、社内文書から検索された場合も、モデルのファインチューニングに使われた場合も同様です。変わるのは、データがどこへ流れるか、そしてその後どれだけ管理が難しくなるかという点です。
個人データの入り口を把握する
評価の前に、データフローを可視化してください。典型的な入り口は次のとおりです。
- プロンプトやアップロードされたファイル(顧客や従業員の詳細情報を含むことが多い)
- SharePoint、CRMのレコード、サポートチケットなど、RAGの検索対象となる情報源
- トレーニングおよびファインチューニング用のデータセット
- 個人データを含む、または個人データを推測しうる出力
- ログ、会話履歴、提供者側のテレメトリ
法的根拠と目的
処理の目的ごとに、第6条に基づく法的根拠が必要です。社内での利用の多くでは正当な利益が現実的な選択肢となりますが、正当な利益の存在、必要性、利益衡量という3段階のテストを実施し、文書化する必要があります。欧州データ保護会議(EDPB)は、意見書28/2024において、このテストをAIモデルに適用する方法を示しています。
第5条の目的制限は、ファインチューニングにおいて特に重要です。ある目的のために収集した顧客や従業員のデータを、そのままモデルのトレーニングに再利用することはできません。目的の両立性を確認し、データ主体に通知し、合成データや匿名化データで代替できないか検討してください。AIの出力が人の関与なしに法的効果またはそれと同様の重大な影響を及ぼす決定につながる場合は、第22条が適用されます。
特別な種類の個人データには特に注意する
健康データ、個人を識別するために用いられる生体データ、ならびに人種的・民族的出自、政治的意見、宗教的信条、労働組合への加入、性的指向を明らかにするデータは、第9条の対象です。これらを処理するには、第6条に基づく法的根拠に加えて、第9条第2項に基づく例外が必要です。人事、医療、カスタマーサービスのユースケースは特に影響を受けやすい分野です。こうしたデータをそもそもプロンプトや検索インデックスに入れてよいかを決定し、可能な範囲でその決定を技術的に徹底してください。
最小化、仮名化、匿名化
データ最小化(第5条)とデータ保護・バイ・デザイン(第25条)により、AIが参照できる個人データは必要なものに限られるべきです。プロンプトの送信前に氏名をトークンに置き換えるなどの仮名化はリスクを低減しますが、仮名化されたデータも、再識別できる者にとっては個人データのままです。匿名化されたデータはGDPRの対象外ですが、真の匿名化を実現するのは困難です。EDPBによれば、モデルはトレーニングデータを保持・再現する可能性があるため、学習済みモデルが匿名であるかどうかは個別に評価しなければなりません。
- 外部モデルに渡る前に個人データを墨消しまたは仮名化する
- RAGのインデックスを各ユースケースに必要なコンテンツに限定し、既存のアクセス権限を尊重する
- プロンプト、出力、ログの保存期間を定める
- テストやファインチューニングには合成データまたは匿名化データを優先して使う
リスクが高い場合はDPIAを実施する
第35条は、処理が高いリスクをもたらす可能性がある場合、例えば新しい技術と人の体系的な評価を組み合わせる場合や、特別な種類の個人データを大規模に処理する場合に、データ保護影響評価(DPIA)を求めています。多くのAIユースケースはこの基準に該当し、監督機関は常にDPIAが必要となる処理のリストを公表しています。高リスクAIシステムについては、EU AI法(EU AI Act)の基本的権利影響評価がDPIAを補完するため、両者を併せて計画してください。
処理者と第三国への移転
AI提供者の多くは処理者として行動します。指示、守秘義務、セキュリティ、再委託先、削除を定めた第28条に基づく契約が必要です。提供者が自社のモデルのトレーニングにお客様のプロンプトやデータを利用していないか、またその利用を停止する方法を確認してください。処理を処理活動の記録(第30条)に記載し、セキュリティ対策(第32条)を文書化してください。
リモートサポートによるアクセスを含め、データがEUまたはEEAの域外に出る場合は、第5章の移転規則が適用されます。認証を受けた米国の組織に対するEU-US Data Privacy Frameworkのような十分性認定、または移転影響評価を伴う標準契約条項に依拠してください。可能であればEU内でのデータ保管を選択し、再委託先の最新リストを維持してください。
Fidempliは、データフローの可視化、DPIA、技術的対策を支援します。2026年12月提供開始のFidempli プラットフォームには、PII/PHIの匿名化とプロンプト向けのガードレールが含まれます。